BLUE CROW

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朝飯の後に「苦い」と愚痴りながら漢方を飲んだ尸良が急にぐったりしたかと思うと、見張りを引き連れた医者がやって来た。己は「ああ、いつものことだ」と思いながら膝を抱え、狐の面を見ていた。それでも両肩を担がれた尸良が運ばれていくのが見ないつもりなのに見えてしまう。ガチャリと牢の鍵が掛けられると、三つの足音が遠ざかっていく。急に辺りが寒くなったような気がした。
牢の中は一日中暗くて時間があまりよく判らない。何刻かたった後に、大きな塊が変な臭いに包まれて戻ってきた。よく判らないけど多分、薬と血が混じった臭いだと思う。朝には見なかった縫い目が足にある。どんなことをされているのかは考えても判らないし、考えたくもない。けど、そんな尸良を見れば見るほど、あの男の身体が腕を斬ったぐらいでは死なないというのが本当に思えてくる。殴られたり、寒い寒いと湯をねだられたり、いろいろされることはないので薬でぐったりした尸良は楽だ。でも一人でいるとここは広すぎるし寒い。聞いたこともない悲鳴みたいなものが当たりの牢から聞こえてくるのは怖い。だけどそれよりももっと怖いのは二人がかりで担がれて戻ってきた尸良がぐったりと横たわったまま動かないことだ。死んでるんだろうかと思うほどに静かだと思うと、急に変な呻き声が上がる。いっそここまま死ねばいいのにと思うのになんだかそれは嫌な気がする。

こういう時の尸良はもちろん飯を食わない。起きてるのか寝ているのかも判らない状態では匙を口元まで持って行っても開こうとしない。無理矢理に押し込んでも形のあるものは飲み込まない。このままだと喉が詰まってしまいそうな気がしてやっぱり指と匙で掻き出す。汁物も口の端からボタボタと落ちてくる。時々どろんとした目が少しだけ開いてはまた閉まる。目が開いたとき、なんとなく、尸良が不安そうな顔をしているふうに見えた。尸良でも死ぬのは怖いんだろうか。尸良は「あー」とか「うー」とか言葉にならないことを呻いている。口からは朝食べた物が戻ってきて着物を汚しているのに指一本動かせないでいる。濡らした手ぬぐいを絞って口や襟を拭ってやると、こんなに寒いのに尸良がうっすらと冷や汗を掻いているのに気がついた。

こんな意識のない状態なら己にだって尸良を殺せるんじゃないかと思う。牢の中に武器らしいものはないけど、この尸良の右手を持ってこのまま喉にでも突き刺せば殺せると思った。が、ふとあの男を刺した時の感じを思い出して手が止まる。肉を刺す感覚はあんなにも気持ち悪いのになんで尸良もあの男もこんなことをしてるんだろう。

尸良もあいつもみんなバカだと思う。そして己もバカでどうしようもない半端者なんだろうと思う。 まだ僅かに残っていた冷めた汁物を口に含むと、ぐったりと横たわっている尸良の頭を左手で抱え、半分起き上がった背中の下に膝を入れてそこに載せる。そのまま自分の口を尸良の口へと持って行き、流し込んだ。ゴクリという音と共に喉仏が上下すると、すぐ目の前で尸良の淀んだ目が開いて、また閉じられる。一瞬、尸良が笑ったような気がして、このまま喉仏に齧りついて噛み殺してやりたくなった。

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