BLUE CROW

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春雷

眠りについてからそう長くはたっていない。浅い眠りは遠雷に打ち破られた。夜に降り出した冷たい雨はまだ止んでおらず、静かに降り続いている。

左腕に倦怠感を感じて顔を向けると、そこにはすうすうと寝息をたてる練造の小さな頭が乗っかっていた。この雷にも気づかないで眠っているところを見れば……いや、そうでなくとも練造が疲れ切っているのは己が一番よく知っている。それに比べたら己の腕のダルさなんてのは屁でもねェんだろうが、痛みを感じないとは言っても、切ったら血は出るし、ずっと重しを乗せられたらダルくはなる。自分の身体のことなのに一つ一つ実体験してみないと判らないことばかりで地味に腹が立つ。何よりも苛立つのはヤってもひとつも気持ち良くならないことだ。練造が下手クソなせいだと思い、毎晩仕込んでみても何も感じない。そりゃァ練造だって少しはうまくなったし、何度もしているうちに練造の身体が気持ち良さをを覚えたはずだ。気持ち良くなれないのは己一人。それに苛立って練造に八つ当たりしたことだって一度や二度じゃねェ。嫌だ止めろと泣き叫ぶ練造に萎えたり興奮したりしても、擦れる感覚がないままには果てるのは難しい。覚えたての身体の練造が何度も達するのを見て、少しぐらいは羨ましいと思わないでもなかった。

黒い髪の毛が流れた涙が乾いた頬に張り付いている。長くてうざったい髪だ。一度だけ「切っちまえよ」と言ったこともあるが、練造の親父――川上新夜も長い髪を縛りもしない男だったそうだ。仇討ちの願掛けのつもりか何なのか知らないが、あとはもう何も言わないでおいた。

己は練造の親父のことなんか知らない、ということにしている。あの時、咄嗟に「知るかよ」と言ったが、多分……これで良かったと思ってる。親父の仇討ちのためだと思っているからこうして己にヤられるのも我慢しているんだろう。練造が泣くのは父親を想っての涙か、己が嫌で嫌で仕方がない拒絶の涙のどちらかだ。もちろん、今の練造の頬に髪の毛を張り付けているのは後者だが、その髪の毛を払ってやろうかと思っても、己の空いている右腕はただの凶器で、このまま練造に触ることすら儘ならない。少し前までは平気で突っついたり、折檻してたのにな、と苦く笑ってみるも腕の先端は鋭く尖った骨があるばかりだ。

髪を払ってやることもできない。涙を拭ってやることもできない。布団替わりの羽織りをかけなおしてやることもこのままの体勢じゃあ無理だ。ましてやこのまま抱き寄せることなど叶わない。出来ることといえば、東の空が白むまで、練造が目を覚ますまで、こうして腕を貸して寝顔を見てることぐらいだ。凶の女の胸に刀を突き立てたり、天下の往来で女を剥いては乳や足を千切ったのはまだ1年も前じゃない。それが今じゃこのザマだ。

今が冬で良かったとか思ってる。夜が長い季節で良かったとかガラにもねェ事をを思ってる。日に日に夜明けが早くなっていっている。雨が暖かくなる春は、そう遠くはない。

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